2013年 アメリカ映画 134分 ドラマ 採点★★★★
“海賊”と言うと、今の子なんかは手足が伸びる元気いっぱいの男の子とかジョニデのアトラクション映画を浮かべるんでしょうけど、私が真っ先に思い浮かべるのはビッケ。もうそれオンリー。なもんで、“ソマリアに海賊!”と初めて聞いた時に頭に浮かんだイメージは、“角付き兜を被ったガリガリでボロ着た黒人が木造船でヒャッハー!”。で、妙に鼻の下を掻いてばかりいる子供がひとり。あらやだ先入観。
【ストーリー】
2009年4月。ケニアへ向けてソマリア沖を航行していたアメリカのコンテナ船マースク・アラバマ号が、4人組の海賊に襲撃される。船員を守るため単身人質となった船長のリチャード・フィリップは、小さな救命艇に乗せられ、海賊と共にソマリア本土へと向かわされる。一報を受けたアメリカ政府は、船長救出のために精鋭部隊のシールズを現地に派遣するが…。
2009年に発生した“マースク・アラバマ号乗っ取り事件”の顛末を書き上げたリチャード・フィリップスによる“キャプテンの責務”を原作に、『グリーン・ゾーン』『ユナイテッド93』のポール・グリーングラスが映像化した実録サスペンスドラマ。製作者の中にケヴィン・スペイシーの名も。
内戦で無政府状態になったことにより管理されなくなったソマリア近海で欧州の船団が魚を乱獲。それに加え欧米の企業が放射性物質を含む産業廃棄物をソマリア沖に投棄したことにより環境が悪化し、数万人の地域住民が発病。それらにより困窮した地元漁民の一部が武器を手に海賊化したと言われるソマリア沖の海賊。
単なる野蛮な悪党として描くのではなく問題の背景をしっかりと捉えたうえで、お馴染みでもある現実感溢れる映像と高いサスペンス描写により、ドキュメンタリー並のリアリティと娯楽性、そして社会性を兼ね備えたポール・グリーングラスらしい一本に仕上がっていた。
マースク・アラバマ号のクルーと海賊との攻防劇と、シールズが参戦する救出劇という2本柱の海上サスペンスが主となる本作だが、この微妙に毛色の違う構成が怒濤の展開を生み出していた。また、その場の状況のみならず、19世紀以来となるアメリカ商船の乗っ取り事件に国民の注目が高まり、その声に押されるように圧倒的な戦力で迅速な解決を図ろうとするアメリカ政府の思惑や、不真面目な子供の将来を心配する主人公が、自分の子供と然程歳の変わらぬ将来に夢も希望もないソマリアの青年たちに襲撃されるという、一種の世界縮図をさり気ないながらも効果的に織り込み、問題の深さを説教臭さ抜きで描きだしたのも見事。なぜ今まで手に取らなかったのかを痛烈に後悔した一本で。
主人公のフィリップ船長に扮したのは、『トイ・ストーリー3』『天使と悪魔』のトム・ハンクス。この“トム・ハンクスが髭面でどっか遠い海上で大変な目に遭う”というコンセプトを初めて耳にした際、勝手に「あぁ、なんだかんだの後抱き合って終わる、ゼメキスかロン・ハワード的なアレね」と解釈してしまい関心を持たなかったってのが、今日まで本作を手にしなかったほとんどの理由。猛省。
で、本作のトム・ハンクスですが、“真面目で良い人”という標準装備をベースに規律と規則を重んじる、少々面白味に欠ける海の男を熱演。個人的にはもう少し険しい顔の役者の方がハマった気もしましたが、本物の方も案外ホワンとした顔立ちなのでこのキャスティングなのかと。原作を本人が手掛けてるだけに多少美化されているとは思うんですが、極限状態から解放され感情が爆発するラストからも見える様に、単純な英雄譚ではなく一個人とそれを取り巻く社会の物語でもある本作の主人公を演じる上では、雰囲気が似ていると同時に一般人的な役柄がハマるトム・ハンクスがベストチョイスで。
ただ、そのトム・ハンクス以上に強烈な印象を残したのが、海賊のリーダー、ムセに扮した本作がデビューとなるソマリア出身のバーカッド・アブディ。これまた当の本人の雰囲気に良く似たキャスティングなのだが、状況の変化と共に自身の立場も変化してしまう難役を、デビューとは思えぬ迫真の演技で好演。商船の船長と海賊船の船長という二人のリーダーのベクトル明確な違いと、共に重い責任を背負わされた中間管理職的リーダーであるという共通点、そして環境の違いからくる切実度の差など、トム・ハンクスとのコントラストをより明確にした見事な熱演で。夢であったアメリカ上陸を不本意な形で実現してしまったムセ。過酷な環境のソマリアからアメリカの監獄へと渡った彼の眼に、アメリカはどう映ってるのかなぁと思いを馳せたりも。
その他、出番があっという間で誰だか分らなかった『かいじゅうたちのいるところ』のキャサリン・キーナーや、グリーングラス作品常連組である『ボーン・アルティメイタム』のコーリイ・ジョンソン、『パージ』のクリス・マルケイ、『サボタージュ』のマックス・マーティーニなど、名前よりも舞台に馴染む顔を重視したキャスティングが光っていた本作。また、役者以上の存在感と威圧感を放ち、小国と大国の関係図すら透かし見せたミサイル駆逐艦トラクスタンも印象的だった一本で。
これもまた世界の縮図のようなもの
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