2014年 アメリカ映画 117分 ドラマ 採点★★★★
街行く人々のほぼほぼ全員がある種の撮影機器を持ってるようなもんなので、“一億総ジャーナリスト時代”とか“一億総パパラッチ時代”とか言われてたりしますねぇ。ただまぁ、別に発信した情報に責任を持ってるわけでも義憤なりの考えがあるわけでもなく、ただただ「スゴイでしょ!」と拡散して共感を得たいだけってのがほとんどなので、その称され方は当てはまらないような気が。なんと言うか、ただの野次馬なだけなのではと。
【ストーリー】
ロサンゼルスで定職に付かず、コソ泥などでその日暮らしを続けるルイス・ブルーム。そんなある日、偶然出くわした事故現場でニュース映像専門のパパラッチ“ナイトクローラー”に出会った彼は、自身もナイトクローラーを生業にしようと決心。早速ビデオカメラを購入し夜の街に車を走らせるのだが…。
『ボーン・レガシー』の脚本を手掛けたダン・ギルロイが監督デビューを果たした悪党ドラマ。兄のトニー・ギルロイが製作を務め、双子のジョン・ギルロイが編集を手掛けたギルロイだらけの一本。
報道の自由やら伝える義務やらを笠に着て、プライバシーもモラルも無視し刺激的で過激な映像を撮り続けるナイトクローラーと、視聴率と自分の進退のためにその映像を高値で買い続けるTV局という、基本的にゲスな人種しか出てこない本作。その背後に居る刺激的な映像を求める一般視聴者の存在も同類。結局“野次馬代行人”でしかないメディアの現状と内幕を、美しい夜の映像とスピーディな展開で描き切った一本。
警察無線を傍受し、救急隊や警察より早く現場に到着して犠牲者を撮影する彼らの姿にはモラルの欠片もない。また、映像としての刺激性を高めるために死体を移動し、次なるニュース映像を得るために証拠映像を隠す様などは、モラル以前に犯罪でしかない。ただ不思議なことに、あくまで私個人の印象なのかもしれないが、そこに嫌悪感が然程感じられない。ゲスな商売なのは確かだが、ニーズに応えるプロの姿として清々しさと悪党ならではの暗い輝きを持って描かれているような感じすら。闇雲なメディア批判ではなく、人々の持つ暗い欲求と、それを生業とするダークヒーローの姿を正面から描いた作品という印象が。なんと言うか、「確かにオレはゲスだけど、その映像見て喜んでる君らはどうなの?」と突き付けてくる、清々しいまでの開き直りっぷりと現実を見つめる冷静で冷徹な視線みたいな。正直なところ、“死”をとことんボカし文字上の出来事としてしか伝えないメディアと、自分が不快に感じる物は一般論的な悪だと押し付ける視聴者、その一方で公人や著名人に対しては何をやってもいいという野次馬根性と私刑感情に溢れた日本のメディアとその周辺に比べれば、全然健康的だなぁと思えてしまう瞬間すら。
そもそも、メディア批判ってよりも現代人の闇の方に注目した本作。「やだねぇ、怖いねぇ、でも自分じゃなくって良かったねぇ」と言いたいだけの野次馬視聴者はもちろんのこと、他者との深い関係性を築けず、知りたい知識のみをネットから得て、それだけで全てを知ったと勘違いするような人種。
そういう意味では、本作で製作も務めた『エンド・オブ・ウォッチ』のジェイク・ギレンホールのキャスティングは完璧。もともと空ろな眼をした覇気の無い現代っ子役がドハマリする役者だったが、そんな若者が他者との接触を持たないまま中年へと差し掛かってしまったかのようなルイスを、鬼気迫るなんて言葉が安易に思えるほどの熱演。これまた安易な例えで申し訳ないんですけど、まさに現代のトラヴィス・ビックル的な気持ち悪さとカッコよさが。
また、ダン・ギルロイの妻でもある『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』のレネ・ルッソの、虚勢と虚栄と過去の栄光にしがみ付いてる様を象徴するかのような怪物めいた厚化粧っぷりも、本作で描く闇を見事に表していたなぁと。
その他、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のビル・パクストンや、キューザック家の長女『ポイント・ブランク』のアン・キューザックらも印象的だった一本で。
モラルはないが偽善でもない
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