2014年 アメリカ/フランス映画 101分 ドラマ 採点★★★★
経験や知識がその人となりを形成してると思ってるんですが、てことは“忘れる”ってのはその人の一部を失うということなんでしょうねぇ。日々嫌な思い出をさっさと忘れたいと思ってるんですけど、実際忘れちゃうと自分じゃなくなっていくんでしょうかねぇ。まぁ、嫌な思い出には密接に良い思い出も関連付いてるんで、それだけを忘れることも出来ないんですけど。
【ストーリー】
大学で言語学を教えるアリスは、仕事も家庭も充実した50歳の日々を送っていた。しかし、講義中に単純な言葉が思い出せなくなったりジョギング中に道に迷ってしまうなど物忘れが頻発し、診断の末に若年性アルツハイマー症と判明する。日々症状が進行するアリスを家族は必死にサポートするのだが…。
リサ・ジェノヴァの同名ベストセラーを映画化した、若年性アルツハイマーを発症した女性と家族の姿を描いた人間ドラマ。ワッシュ・ウェストモアランドと、本作の公開後程なくしてALSで亡くなったリチャード・グラツァーが監督・脚本を。
知識と言葉を糧に人生を積み重ねてきた女性がそれらを失っていく戸惑いと恐怖、そして彼女を支えていく家族の姿を描いた本作。過剰に演出された過酷な闘病記や不幸と死をネタにした所謂“感動もの”にはせず、言葉が浮かばなくて戸惑うアリスや、名前を間違えられた子供たちの困惑の表情など些細な変化を丹念に描くことで、家族全員で向かい合わざるを得ない問題の大きさを見事に表現している。
若干イジワルな言い方をすれば、アリスはまだ恵まれている。経済的にも恵まれているし、それに裏打ちされた家族関係にも恵まれている。過酷さと不幸話を売りにしたいのであれば、この環境は反感を生むだけかもしれないが、そもそも本作はそんな作品ではないのでは。遺伝性であり子供たちにも発症のリスクがあることを知ったアリスが語るように、次の世代には解決法があって欲しいという希望と、最後に残る言葉が“愛”だったように、全てを失いむき出しになった人間性がこうであって欲しいという望みが込められた一本なのかと。そんな甘いものじゃないのは個人的な経験上からも分かってはいるが、それを持ち続ける重要さは十分過ぎるほど伝わったので評価は高い。
アリスに扮したのは、『フライト・ゲーム』『ドン・ジョン』のジュリアン・ムーア。常々彼女の作品を観る度に、類稀なる表現力と年々積み重ねていく美しさに“惚れ惚れする”としか書いてないんですが、本作もまさにそう。知性と理性に溢れた女性、それを失っていく恐怖と困惑に襲われる様、そしてその後の虚空と少しずつ確実に変化していく様を見事過ぎるほど的確に表現。
その表情の少なさと棒っぷりが本国でネタにもされる『スノーホワイト』のクリステン・スチュワートがジュリアン・ムーアと共演するってのは、なんか一種の罰ゲームのような感じもありましたが、お得意の低体温ゴス系キャラだったので違和感なし。
また、胡散臭い役柄か陰険な役柄ばかり最近観ていたせいか、大きな愛と懐の深さを見せる夫役の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のアレック・ボールドウィンにちょっとした新鮮さを。ただ優しいだけではなく、葛藤と弱さをしっかり滲み出す巧みさも見事で。
その他、然程描かれてなかったってのとぱっと見のゴージャスさでウヤムヤにされてた感もあったが、アリスと同じくらいの重いドラマを抱えていた長女に扮した『バトルフロント』のケイト・ボスワースも印象的だった一本で。
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