2015年09月22日

セッション (Whiplash)

監督 デイミアン・チャゼル 主演 マイルズ・テラー
2014年 アメリカ映画 107分 ドラマ 採点★★★★

アホって文字を擬人化したようなウチの小6の長男。ただアホならではの吸収力の良さからか、所属しているブラスバンドでのスネアドラムの腕前は、大人混合の他チームからお誘いが来るほどのもので。本人も相当真剣に取り組んでいて、中学に行ったら学外のチームに参加し、高校は県外のマーチング強豪校に行きたいと常々。気持ちと技術と才能が釣り合ってるようにも見えるので私は全く反対するつもりはないんですけど、小学生だからこそ褒められている現状から、外に出た時のギャップに耐えられるかどうかはちょっと心配。如何せん打たれ弱いんで。ただまぁ、他人の劣ってる部分を探し出して自尊心を満たすのではなく、優れた部分に素直に驚くタイプなので案外大丈夫かなとも。

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【ストーリー】
一流のドラマーを目指し名門校シェイファー音楽院に入学したニーマン。幾多の学生の中でも才能ある者のみを集めるフレッチャー教授の目に留まったニーマンは、彼の指導するバンドへ参加する。期待に胸を膨らませ練習に参加したニーマンだったが、彼を待ち受けていたのは常軌を逸したフレッチャーのしごきで…。

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長編二作目となるデイミアン・チャゼルが脚本と監督を手掛けたドラマ。
本作は音楽の持つ魅力と魔力を描いた作品ではない。ジャズを取り扱ってるがジャズ映画でもない。努力の美しさを描いてるわけでも、心身ともに追い詰める指導法の是非を問うてるのでもなく、実は心優しき指導者と最後に抱き合うような映画でももちろんない。そこに描かれてるのは、ただただ剥き出しになった感情がぶつかり合う様のみ。なんと言うか、ドン・フライと高山善廣のあの壮絶な殴り合いを音楽教師と生徒に置き換えて描いたかのような。
理想とする音楽と音楽家を生み出すためには手段を問わないフレッチャー。指導者という立場にいるが、音楽を奏でる方法が違うだけで彼自身プレイヤーである。かつての生徒の死を悲しむ様に、ムチの強めな愛ある指導者と見えてしまう瞬間があるが、自分の邪魔をする相手に対しその才能度外視で陰険に潰そうとする姿を見ると、やはり自分が生み出した音楽が消えたことを嘆いているだけに過ぎないのだろうと。狂気すら漂うその指導っぷりに『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹を思い起こさせるが、欠陥兵士が他の兵士の命を奪う危険性を熟知した上で過激な指導を行った軍曹と比べると、やはりフレッチャーの行為は自己愛のみ
そのフレッチャーの狂気を、心身ともにムキムキに演じた『40男のバージンロード』のJ・K・シモンズの見事なこと。

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一方、リブートされた『ファンタスティック・フォー』が控えるマイルズ・テラー扮するニーマンもまた、理想とする音楽の実現に手段を問わない若者。練習の妨げになるであろう恋人を捨てるのが手段を問わない証しではなく、理不尽でしかないフレッチャーとの殴り合いに正面切って挑み続ける姿勢こそがそれ。三流大学のフットボール選手の方が優遇されるジョックス社会を見返したい強い思いと、特別な人間になりたいという欲求。青臭いが、原動力としてはこれ以上強いものはない“音楽をやる理由”に突き動かされ続けるニーマン。これもまた自己愛の塊
この自己愛の塊同士が感情を露わに殴りあうかの如くぶつかり合うクライマックス。それぞれの理想形が姿を現し始め、それが結実する瞬間の高揚感たるや。格闘技の試合でどちらか一方の実力が劣っていれば名試合は生まれない。もちろん、ファイター同士の間に何かしらの愛情がある必要もない。常に相手の上を行こうとする技のやり取りが名試合を生み出すのだが、ありきたりな例えでアレだが、本作もまさにそれ。楽譜を失くすシーンが特に顕著な、物語を回すためだけにイベントを放り込む脚本の甘さは否めないが、圧迫感すら感じられる演出とそれに応える演者の熱演がそれを十分打ち消す、本年度を代表する傑作のひとつに仕上がってたのではと。
ジョックス一族の中で息子を守りきれない父親に扮した『ビバリーヒルズ・コップ』のポール・ライザーや、絵に描いたようなあて馬を演じたオースティン・ストウェル、個人的になぜか出てくるだけで得した気になるヒドゥン』のクリス・マルケイらも印象的だった一本で。

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アイツの顔だと思ってドラムを叩き

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posted by たお at 14:36 | Comment(4) | TrackBack(44) | 前にも観たアレ■さ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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