2015年09月11日

アメリカン・スナイパー (American Sniper)

監督 クリント・イーストウッド 主演 ブラッドリー・クーパー
2014年 アメリカ映画 133分 ドラマ 採点★★★★

戦争映画なんか観てると、大抵の戦闘シーンは目視できる敵兵に対し射撃し、撃った弾が当たって死ぬまでをもその目で見てますよねぇ。まさに“殺し合い”って感じ。ただ、たまに目にするヘッドカム映像なんかの実際の戦闘の様子を見ると、大体の位置関係以外は何処に居るのかサッパリ分からない敵兵に向かって一斉に制圧射撃してたりも。当然、当たったかどうかもよく見えず。でもそういう近代戦においても、スナイパーってのは敵の姿からその死までをもその目で見つめてるんですよねぇ。キツいなぁ。

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【ストーリー】
2001年の同時多発テロを目にしたカイルは強い愛国心から軍に入隊、精鋭部隊ネイビー・シールズの狙撃手として過酷な訓練を受ける。イラクへと向かったカイルはその類稀なる狙撃の才を発揮し多くの仲間を救い、レジェンドとして称賛を浴びていく。帰国し愛する妻と子供らと平穏な生活を送るカイルであったが、戦場での体験は静かに彼の心を蝕んでいき…。

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イラク戦線で160人以上の敵兵を殺害した伝説の狙撃手クリス・カイルの回顧録を、『人生の特等席』のクリント・イーストウッドが映画化した実録戦争ドラマ。主演に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のブラッドリー・クーパー、共演に『フォックスキャッチャー』のシエナ・ミラーらが。
公開から随分と経ち内外の評価が出揃った印象もある本作ですが、それらをざっと見てみると“愛国的英雄譚”と捉える方もおられれば“反戦映画”として捉える方もいる。また、“アメリカ至上主義のアラブ蔑視映画”と捉える人もいるかと思えば、“戦意高揚映画”として観る方も。まるでリトマス試験紙のように、観る人の思想傾向を反映するかのような様々な意見が。そんなことを頭に入れながら鑑賞してみたが、なるほどこれは分かれるわけだ。
9.11の追悼式典でのイーストウッドのスピーチを真に受けるのであれば、彼自身テロリストへの報復に対しては肯定的だ。これまでの作品を観る限り、愛国心に関しても揺ぎ無い。だが一方で、如何なる理由であっても“殺人は罪である”という考えも。本作にはその二つの考えがクッキリと表れている。

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家族を愛し国を愛するカイルは善人だ。そして母国とそこに住む人々の命を守るためにイラクへと出向き、仲間の命を救うために敵兵を葬ってきた彼は英雄でもある。しかし、仲間を救うためとはいえ、彼の行った行為は“殺人”でしかない。そこには“イラク人から見たら”という但し書きもいらない
生ある者がそれを失うまでをスコープを通して見つめるカイル。生かすか殺すかは彼自身の選択で、そしてそれは指先一つで決定される。繰り返される善なる理由付けをされた殺人の中で、静かに少しずつ病んでいくカイルの心。その一方で、彼の才能が最も輝き、多くの仲間たちに囲まれ英雄として称賛される戦場を欲するカイル。その心の動きを、イーストウッドはいつも通り静かにフラットに見つめているが、その静かさとは裏腹に激しい動きが手に取るように分かるドラマチックな描き方をしている。もちろん、“ドラマチック=過剰”ではなし。

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どこか撮り急いでいるかのような印象もある昨今のイーストウッド作品には、題材選びにちょっと疑問を感じる作品も少なくないんですが、本作はまさにイーストウッドらしい題材。英雄として数多くの極悪人を葬り去る一方で、殺人の罪の重さを見つめてきたイーストウッドだからこそ描けたともいえる一本。
異なる思想を持つ者同士の議論は、双方が都合の悪い部分を隠し聞こえの良い部分のみで争いがち。そのやり方だと、一方にとってはカイルは完全なる英雄で、一方にとっては愛国心を利用された殺人者に過ぎなくなる。しかしイーストウッドは、それらのど真ん中に立ってカイルを見つめている。もちろん私の思想なり考え方が反映しているんでしょうが、本作のカイルは紛うことなく英雄である。しかし、殺人という行為も肯定していない。その重すぎる罪を背負っている。守るべきものは守らねばならない。しかしながら、如何なる理由であっても殺人と言う罪は肯定されないし、してはいけないという現実をありのままにまざまざと描きだした一本で。

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右や左からじゃなく、真上から見た現実

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posted by たお at 16:43 | Comment(10) | TrackBack(67) | 前にも観たアレ■あ行■ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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