2014年 オーストラリア/カナダ映画 93分 ホラー 採点★★★★
児童虐待が直接的な原因となってる場合のみならず、育児放棄や子供に対する無関心さが遠因となっている痛ましい事件ってのが後を絶たないですよねぇ。そんな事件が起こると、決まって「親が悪い!」「子供に対する愛情が足りない!」「子供を最優先にすべき!」といった声があがりますが、それらがこれからの事件を抑止する効果につながるかってことに関しては大きな疑問を。確かに私も親になる前はそう考えてた人間だったんですけど、それなりの問題を抱えた子の親となった今では、そんな声や考え方が逆に親を追い詰めて悪い方向へと進めてしまうんじゃないかなぁと思うように。もちろん子供と向き合うのも大切ですけど、自分と向き合うのも大切。耐えられない時は、逃げてもサボってもいいと思うんですよねぇ。
【ストーリー】
出産を迎え病院へと車を走らせている道中での悲惨な事故により、最愛の夫を失ってしまったアメリア。それ以降、彼女はシングルマザーとして一人息子のサミュエルと二人で暮らしていた。しかし、小学校や親類にも煙たがられるほど言動に問題の多いサミュエルに手を焼いていたアメリアは周囲から孤立し、精神的にも追い詰められていく。そんなある夜、見覚えのない“ババドック”という絵本を見つけたサミュエルにせがまれ読み聞かせをすると、その夜を境に本の内容通りの奇怪な出来事が起こり始め…。
女優として『ベイブ/都会へ行く』などにも出演していたジェニファー・ケントが、自身の短編“Monster”を長編化して劇映画デビューを果たした、各国の映画祭で話題をさらったホラー作品。
問題を抱えた息子の育児に日々疲弊していくアメリア。「母一人子一人だからこそちゃんとしなければ」「特殊な子だからこそ私が受け止めなければ」という生真面目さが彼女を精神的に追い詰め、発散できないストレスを肥大させていく。助けの声を上げることも、誰かに甘えることも、外に逃げ出すこともその生真面目さゆえに出来ず、そのストレスが言葉の中にトゲを生み出して更に周囲から孤立していくアメリア。
サミュエルの誕生と共に夫を失ったアメリアにとって、息子の誕生日は同時に夫の命日。本来なら子供の成長を喜ぶ日になるはずなのだが、アメリアにとっては悲しい記憶が蘇る日にすぎない。「この子さえいなければ…」、そんな思いが心の隙間に入り込む。息子の奇行が原因で小学校から追い出され、妹とも疎遠に。仕事で疲れ果て家に戻ると、待っているのは何かにつけ感情を爆発させる息子との二人きりの時間。息子の過剰なまでの母親に対する愛情表現と爆発する感情に、心身ともに追い込まれていくアメリア。この子さえいなければ…。
そんな肉体的にも精神的にも追い詰められた母親の心に入り込んだ“魔”を、“a bad book”のアナグラムであるババドックという魔物の姿を借りて描いた本作。ほんの小さな“魔”でしかなかった心の闇がどんどん肥大してコントロール出来なくなる様を、女性でしか描きえないディテール細かな描写で描き切っていたのが見事。本来なら愛情を強く感じるはずの後ろから抱きついてくる幼い息子に対し、ふと嫌悪感を感じてとっさにその手を振り払ってしまう様や、怒りと後悔が交互に襲い来る様など、子を持つ親であればハッとしてしまう描写も多く、その生々しさと身近さに魔物として登場するババドック以上の怖さを。自分が生み出してしまった心の闇を消し去ったり全否定したりせず、正面から向き合うことで心のバランスを保とうとする締めくくりも上手い。
もちろん単なるモンスター映画としても完成度は低くなく、ババドックの造形や絵本の不気味さ、アメリアの心の中を象徴するかのように闇が多くがらんどうな家の描写など、本能的な恐怖を感じる見どころも多かった一本で。
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