2013年 アメリカ映画 114分 サスペンス 採点★★
事実の積み重ねがイコール真実になるわけではないんですよねぇ。Aにとって有利な事実の積み重ねと、Bにとって有利な事実の積み重ねが同じ結果を導き出すわけじゃないように。ドキュメンタリーなんかも真実と受け取られがちですが、あれなんかも真実を発見したわけじゃなく、作り手の意見に沿う事実の積み重ねでしかない場合も。実話やドキュメンタリー、それこそニュースと言われるものに対しても、そんなことを頭の片隅に入れておいて受け止めた方がいいんでしょうねぇ。
【ストーリー】
1993年、アーカンソー州ウエスト・メンフィス。この小さな町で三人の児童が惨殺される事件が発生する。地元警察は悪魔崇拝者の犯行とし、ヘビメタとオカルトを愛好していた三人の青年を容疑者として逮捕する。しかし、あまりに杜撰な警察の捜査と彼らを犯人とする根拠の薄さに疑問を感じた調査員のロンは、弁護士団に協力を申し出、独自に調査を開始する。だが、裁判は彼らにとって一方的に進んでいき…。
「有罪ってことには変わりないけど、なんか皆がうるさいから刑期満了ってことで出ていいよ」という、唖然とする展開を迎えたことも記憶に新しい“ウエスト・メンフィス3”の事件を取り扱った同名ノンフィクションを、『白い沈黙』のアトム・エゴヤンが映像化した実録サスペンス。
この事件を取り扱ったドキュメンタリー作品『パラダイス・ロスト』のレビューで、概要や経緯について書かせてもらったので、宜しかったら。
で、本作。結論から書かせてもらうと、ビックリするくらい掘り下げがされていない。それなりの重さと見応えはあるのだが、それは事件そのものが持つ衝撃度と演出の重々しさが生んでいるだけで、物語が生み出しているものではなし。非常に有名な事件で年月も然程経っていないこともあって関係者に気を遣ったのかも知れないが、“なぜ司法は頑なに彼らを犯人にしたいのか?”“なぜ悪魔崇拝者に対しそれほどまでに過敏に反応するのか?”などはおろか、土地の特異性や現代の魔女裁判となった経緯までもが掘り下げられず、さらっと上っ面だけをなぞった非常に表層的な作品に。独自のアプローチもされていないので、そもそもなんで作ったのかさえも疑問に感じてしまう、とっても残念な仕上がり。なんか、粗筋だけをなぞった小学生の読書感想文のような印象すら。
まぁ、下手に意図的な視野を加えず事実だけを並べ観客に問題を投げかけるタイプの作品なのかとも思ったが、「太郎君はリンゴ5個とみかんを7個持っています。どうですか?」みたいに問題にすらなっていないので、受け止めようもなし。
この掘り下げのなさは、全ての人物描写にも当てはまる。
『キングスマン』のコリン・ファース扮する主人公は、なんか正義感的なものしか行動原理の見当たらない終始暗い顔をした人でしかないし、『幸せの始まりは』のリース・ウィザースプーンが扮する犠牲者の母親も、時間配分が多い割には“子供を失って悲しい”って役回りしかない、なんとも中途半端な立ち位置。
この、大物が揃ってるのに意味のある役回りがないってのが本作の特徴なのか、『リアル・スティール』のケヴィン・デュランドが扮した、『パラダイス・ロスト』では疑いの目を向けられていたジョン・マーク・バイヤーズは単なる変わり者だし、『SUPER 8/スーパーエイト』のブルース・グリーンウッドが扮した裁判官は理不尽な頑固者でしかない。この辺の残念具合は、似たような印象を受けた『エミリー・ローズ』も手掛けた、ポール・ハリス・ボードマンとスコット・デリクソンのらしさ発揮というところか。
ただまぁ、服装などのディテールに対する注意深さや、人物の雰囲気を巧く真似たキャスティングなど見所も少なくはない。だからこそ、ちゃんと掘り下げて独自のアプローチをした作品に仕上げて欲しかったなぁとも。
ちょっと厳しいことばかり書いてしまったこのレビューを読み直してみると、もしかするとこの事件に関する事前知識のある/なしが評価に大きな変化を与えてしまう、ちょっと不公平な観方をしてしまったのかなぁと頭をよぎりましたが、そもそも結構有名な事件で、これに関する作品も少なくないアメリカ本国での上映をまず第一に置かれて作っている作品なので、やっぱり評価と印象は変わらずで。
ただの三人組
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