2007年 アメリカ映画 113分 アクション 採点★★★★
『溶解人間』とか『ジャイアント・スパイダー大襲来』とか大好きです。もちろん顔がドロドロと溶ける様や、台車に乗っかったでっかいハリボテから人々が笑いながら逃げ惑う様を見るのが好きってのもありますが、時間も金もなく、そして何よりも才能にも恵まれなかった映画人が、華やかさとは縁遠い現場で僅かな望みとヤケクソにまみれながら撮り上げた故に色濃くフィルムに刻まれた、どんなに頑張ってもこうなってしまうある種の遣る瀬無さが大好きなんですよねぇ。

【ストーリー】
耐死仕様に改造した愛車で夜な夜な若い娘を血祭りに上げていた、スタントマン・マイク。次の獲物に彼が選んだのは、映画関係者の美女4人組であったが…。

60年代から70年代に血と暴力とエロに塗れた映画ばかりを数本立てで上映していた当時の映画館の雰囲気を復活させようと、クエンティン・タランティーノが作り上げた一本。『シン・シティ』のロバート・ロドリゲスによる『プラネット・テラー in グラインドハウス』を併映に、たっぷりとフェイク予告編を挿入した本来あるべき姿で鑑賞した訳ではないので暫定的な感想とはなってしまうのだが、独立した作品として再編集された本作もなかなかに面白い。
もともと私自身は、金にも時間にも才能にも恵まれなかった映画人が作り上げた作品群を、金にも時間にも才能にも恵まれた人間が忠実に作るってのは、なんと言うか“アナーキー・イン・ザ・UK”をキング・クリムゾンが完全コピーしたのを聴かされるような、音は完璧だが内なる叫びが全く届いてこない上に鼻につくので、あまり好きではないのだが、本作においては愛して止まないものを撮る為には、作品全体のバランスをも厭わないタランティーノの不器用さもあってか、そんなスノッブな匂いは全くしない。軽快なテンポと生身スタントの迫力を思う存分堪能できる上に、冷酷なはずの殺人鬼がベソをかいて逃げ回るあんまり観たことのない展開が楽しめる後半部が個人的には好きなのだが、傷だらけでシーンもちょくちょく飛ぶフィルムの保存状態の悪さやピントがずれるテクニック面だけではなく、程よい色気とマッタリとしたテンポで眠気を誘いつつ、何で走っている車から手や足を出しちゃいけないのか良く理解できる度肝を抜くショックシーンで一気に眠気を覚ます構成まで忠実に当時を再現した前半部における、ノリにノったタランティーノ演出も楽しい。自前のジュークボックスからお気に入りの楽曲をガンガン流し、大好きな美脚の美女がウヨウヨとたむろするバーは、まさにタランティーノの脳内パラダイス。“タランティーノのオナニー”と言われればそれまでなのだが、これだけ楽しいオナニーなら付き合って損はない。いや別に、ホントにオナニーに付き合うつもりはありませんが。

スタントマンの割には滅法痛いのが苦手っぽいスタントマン・マイクには、『ポセイドン』『スカイ・ハイ』のカート・ラッセル。当初はミッキー・ロークにも話が行っていた役ではあるが、最近ではめっきり少なくなった土と油の臭いが似合うタフさを持ちつつも、狙った獲物に逆襲されベソをかきながら逃げ回り、映画史上稀に見る無様な“ゴメンなさい”を違和感なく披露できる芸幅の広さで言えば、まさにカート・ラッセルは適役。あんなに綺麗に踵落しを決められる俳優ってのも、そうそう居ませんし。
そんなカート・ラッセル以外にも、タランティーノ映画らしく本人を含め錚々たる顔ぶれが揃った本作。『シン・シティ』のロザリオ・ドーソンに『プラネット・テラー in グラインドハウス』と本作の両方に出演するローズ・マッゴーワン、お父さんが女装しているようにしか見えなかったシドニー・ターミア・ポワチエに、お母さんにはなにかとお世話になった『ホステル2』のジョーダン・ラッド、何のために居たのかサッパリ分からなかった『ダイ・ハード4.0』のメアリー・エリザベス・ウィンステッドに、『ホステル』のイーライ・ロス、状況をしっかりと説明だけしてくれるマイケル・パークスとその息子と至れり尽くせりの顔ぶれなのだが、最も強烈な印象を残してくれるのがトレイシー・トムズとゾーイ・ベルの二人。特に、最も画面栄えしなそうな風貌で登場しながらも、身体を動かし始めた途端にとんでもない輝きを全身から発し始めたゾーイ・ベルは絶品。鉄パイプ片手に箱乗りする勇ましさもさることながら、難しいことは得意じゃないが頑丈な身体と真っ直ぐな性格で大体のことはクリアしちゃいそうな佇まいと懐っこい笑顔は、スタントウーマンとして裏方だけに徹するにはもったいない逸材。是非ともジェームズ・キャメロン辺りに使って頂きたいもので。

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